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【賃料増額】計算方法の定めがある場合

地主の中には、借地料の値上げに頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。

特に、契約書で賃料の計算方法をあらかじめ定めてある場合、値上げを諦めている方がいます。

一旦契約してしまった以上、その計算方法は、もう変更できないのでしょうか?

今回は、賃料の計算方法の特約がある場合について説明します。

結論から言うと、計算方法の変更は可能です。

そもそも、なぜ契約書に賃料の計算方法が書かれているのか?ですが、

殆どの場合、それを定めた当時、賃料変更で将来のトラブルを避けたいと考えてのことです。

ところが、現在それがネックとなって、賃料増額の妨げになっている訳です。

すなわち、トラブルを避けるための公平な基準が、今ではその機能を失っていると考えられます。

具体的には、契約書の特約で、

①賃料を固定資産税等の1.5倍(公租公課倍率1.5)などに固定

②賃料変更は「消費者物価指数」のみを基準として求める

などと定めてしまっている場合です。

 

公租公課倍率を基づく方法は、長期間経過すると公平でなくなっている場合があり得ます。

不動産鑑定でも、公租公課倍率法は明確に定められていません。

また、消費者物価指数などをベースに計算する方法を「スライド法」といいます。

かつてはスライド法による計算に公平性が認められていた時代がありました。

ところが、このような計算方法が、今ではむしろ不公平になっているケースが見られます。

消費者物価指数なども長年ほとんど数字が変化していない場合も多いものです。

(なお、2022年11月1日時点、消費者物価指数は上昇傾向にあります。)

 

このように、一手法のみで計算する方法は、そもそも公平であるかどうか疑問です。

不動産鑑定では、複数の手法によって適正な継続賃料を求めることになっているからです。

 

そこで公平でないと認められる場合は、計算方法自体を変更できるとした判例があります。

最後に参考になる判例を最後に紹介しておきます。詳しく知りたい方はお読みください。

 

問題は、公平かどうかの判断です。

これは実務上不動産鑑定によって検討せざるを得えません。

 

継続賃料については難しい場合が多いので、何か疑問点等がありましたら不動産鑑定士にご相談ください。


【判決文抜粋】※判例Noは、後記■参照。

判例の文章が難しく感じられる方は、太字の部分だけお読みください。

イ 借地借家法32条1項といわゆる賃料自動改定特約について
ところで,建物の借賃が,土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により,土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により,又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる(借地借家法32条1項本文)。これは,長期的,継続的な借家関係では,一度約定された賃料が経済事情の変動等により不相当となることも予想されるので,公平の観点から,当事者がその変化に応じて賃料の増減を請求できるようにしたものと解するのが相当である。この規定は,賃料不増額の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,賃料増減請求権を行使できるとしているのであるから,強行法規としての実質を持つものである(最高裁昭和28年(オ)第861号同31年5月15日第三小法廷判決・民集10巻5号496頁,最高裁昭和54年(オ)第593号同56年4月20日第二小法廷判決・民集35巻3号656頁参照)。
他方,賃料の額の決定は,本来当事者の自由な合意にゆだねられているのであるから,当事者は,将来の賃料の額をあらかじめ定める内容の特約を締結することもできるというべきである。そして,賃料改定をめぐる協議の煩わしさを避けて紛争の発生を未然に防止するため,一定の基準に基づいて将来の賃料を自動的に決定していくという賃料自動改定特約についても,基本的には同様に考えることができる。
そして,賃料自動改定特約は,その賃料改定基準が借地借家法32条1項の規定する経済事情の変動等を示す指標に基づく相当なものである場合には,その効力を認めることができる。
しかし,当初は効力が認められるべきであった賃料自動改定特約であっても,その賃料改定基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより同特約によって賃料の額を定めることが借地借家法32条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,同特約の適用を争う当事者はもはや同特約に拘束されず,これを適用して賃料改定の効果が生ずるとすることはできない。また,このような事情の下においては,当事者は,同項に基づく賃料増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない最高裁平成14年(受)第689号同15年6月12日第一小法廷判決・民集57巻6号595頁参照)。
そして,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否及び相当賃料額を判断するに当たっては,賃貸借契約の当事者が現実に合意した賃料のうち直近のもの直近合意賃料)を基にして,同賃料が合意された日以降の同項所定の経済事情の変動等のほか,諸般の事情を総合的に考慮すべきであり,賃料自動改定特約が存在したとしても,上記判断に当たっては,同特約に拘束されることはなく,上記諸般の事情の一つとして,同特約の存在や,同特約が定められるに至った経緯等が考慮の対象となるにすぎないというべきである(最高裁平成18年(受)第192号同20年2月29日第二小法廷判決・集民227号383頁参照)。

■裁判年月日 平成30年12月20日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平28(ワ)18063号 ・ 平28(ワ)18108号
事件名 賃料増額請求事件(第1事件)、賃料減額確認等請求事件(第2事件)
裁判結果 一部却下、一部棄却(第1事件)、一部認容(第2事件) 文献番号 2018WLJPCA12208015

以上