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直近合意時点 あえて更新しないのも1つの手

皆さん、こんにちは。不動産鑑定士の三原です。

今回のテーマは「直近合意時点 あえて更新しないのも1つの手」についてです。

まず前提として、直近合意時点とは、直近でいつ賃料改定を合意したか?その時点のことです。

こちらの図をみてください。

ここでは直近合意時点を平成26年としています。賃料鑑定をする場合、かならず直近合意時点を決める必要があり、原則として、この時点を起点として、地価や経済情勢の変動をみることになります。仮に、この時点の賃料がそれ以前から据え置きだったり現状維持が続いている場合でも、直近合意時点が決まると、この時点以降から請求時までの変動を中心にみることになるのです。なお、厳密には、直近合意時点からだけでなく、契約当初に遡って長期的に見るのが理論的手法ですが、判例などでは直近合意時点以降を主眼に置かれることが多く、ここでは分かりやすさを重視して、ごく簡単に説明しています。

したがって、賃料が据え置きの場合はあえて合意しない方がよい場合もあります。その方がオーナーにとって有利になる場合があるからです。合意しない場合でも法定更新されます。実務上、更新料を受け取れるケースでは、その金額との見合いになるでしょう。

 

 

次に、具体的な判例をご紹介します。

東京地裁の令和4年の判決です。これは直近合意時点で争い、結局、オーナーに不利な判決がでてしまった事例です。かいつまんで事案の概要を説明しますと、六本木にある貸店舗付きのビルの所有者が、店舗の家賃が安すぎるとして、賃料増額をおこなった事案です。

もとの契約は昭和の頃からで、その後、平成2年当時から月額家賃78万円程度で概ね現状維持のままでした。ところが直近で平成26年にやはり同額程度の月額家賃78万円で更新してしまいました。要するに平成2年当時から今まで30年くらい家賃がほぼ変わっていない案件です。オーナーからすると、いくらなんでもそりゃないでしょう、という話な訳です。

不動産鑑定士からみて、この裁判の最大のポイントは「直近合意時点」でした。オーナーからすると、直近合意時点は、平成26年以前の土地の値段がもっと低かった時点を起点にして算定してもらいたかった、その方が値上げを言いやすいので、そうした立場で主張していました。

さて、本件の判決では、裁判所は、オーナーの意に反して更新合意書の存在を理由に直近合意時点を平成26年と判断しました。つまり、平成26年時点から請求時点まで間の変化を主として、賃料が計算されたのです。要は、あまり値上げが出来なかった訳です。

不動産鑑定士の立場からすると、「更新する」ことは、直近合意時点が決まってしまうので、慎重に対応することが必要だと言えます。あえて合意更新しないのも1つの手となり得るのです。

最後に、本判決では、どのくらい家賃が値上がりしたか?についてです。平成26年の更新時に月額78万円だったところ、月額117万円の判決がでて、結果として1.5倍に増額されました。ただ、このオーナーはもともと新家賃として421万円を請求していましたので、この判決には不満だったと思います。ですが、私がみる限り、他の判例と比べて今回は家賃が上がった事例でした。

ちなみに、今回の趣旨とは少し違いますが、私がこの判例のオーナーにアドバイスするなら、最初から421万円でなく、もう少し妥当な金額で請求していれば、もう少し値上げできたかもしれませんね。あまり高額な請求しすぎると、裁判官らに呆れられて逆効果になる場合もあります。

以上、今回のテーマは、「直近合意時点 あえて更新しないのも1つの手」についてでした。では今回の話はここまで。

参考文献:東京地裁の令和4年(令和元年(ワ)11347号:借賃増額確認等請求事件)の賃料増額事件