実例紹介・お客様の声

当社に寄せられた数多くのお客様の声の中からいくつか厳選して実例としてご紹介いたします。

Vol.14不動産価値の向上と寄与分【短縮版】

(1)相続額の不均衡
 これは、もともと私の友人の司法書士に持ち込まれた案件で、少し複雑なものです。以下は、その友人、酒井くんとしておきましょう、その酒井くんから聴いた話と、私が依頼人から直接聴き取った内容です。

 依頼人は、59歳の元銀行員。4年前に銀行を早期退職して、母親の介護をしながら、母親所有の土地の管理をしていました。元銀行員で不動産関係の業務を担当していたこともあって、なかなか不動産の扱いに慣れた人です。
母親の遺産総額は、2億4,200万円。内訳は概ね、以下のとおりです。
自宅 1,000万円
マンション(母の持分2分の1) 9,000万円
マンションの敷地 5,000万円
アパート2件 合計5,500万円
遊休地 700万円
現金 3,000万円

 相続人は、3人の子供たちのみ。遺言はありませんでしたが、3人の子供たちに遺す財産についてのメモは残っていました。
浩一 自宅とマンションの土地建物 合計1億5,000万円
洋二 アパート2件 合計5,500万円
光子 現金と遊休地、合計3,700万円
浩一が依頼人本人、長男です。洋二が次男、光子は2人の妹です。

 そして、依頼人とこのような会話があったそうです。
「洋二は弟で、大手のIT関連企業に勤めています。子どもは2人います。妹の光子は、結婚して大阪に住んでいます。妹には子どもがいません」
「あなたの取り分がかなり多いですね」
「私は長男だし、自分の面倒をしっかりと見てくれたからと。ただ、このマンションは2年前に竣工したものでして、建築費に関する借入が母の債務として残っていて、それが約5,000万円あります。それを私が相続することについては借入先の銀行とも合意してます」
「そうなると、貴方の取り分が1億円、弟さんが5,500万円、妹さんが3,700万円ですか」
「妹はそれで構わないというのですが、弟が、いくらなんでも兄さんの取り分は多すぎないかと、なかなか遺産分割協議に応じてくれません。そこで、遺産分割協議をまとめるためにはどうしたらよいかということで、これまで何度かご一緒に仕事をしてきて、いろいろとアイディア豊富な先生にご相談に伺ったわけなのです」

(2)妙な依頼
 こうした説明をしてから、酒井くんは私に、少し妙な鑑定を私に頼んできたのです。テーブルには、登記事項証明書など多数の書類が並べられました。その中には、依頼人の相続財産に含まれていない土地のものも含まれています。
「要は、相続財産に含まれているこの3階建てマンションの建物とその敷地、そして、相続財産ではない6筆のこれらの土地、それぞれの価格の鑑定をして欲しいんだ。ここ6筆の土地は、もともと依頼人の母親の所有地だったけど、依頼人が現在の所有者に売却したもので、その売却した当時の価格、そして、このマンションの敷地については、マンションが建つ前の価格を、それぞれ鑑定して欲しいんだ」
「ん、自分が売却した土地の価格なんて、依頼人には分かりきってるはずでは?」私は怪訝に思いました。
「そこが、今回の依頼の核心なんだ」酒井くんは、少しもったいぶった言い方で返してきました。
「というと?」
「まずは、この遺産に含まれる不動産を見て、感想はないか」
「そうだな。当たり前のことを言うようだけど、最も価格が高いのは、当然、このマンションと敷地。マンションについては持分だけど。要は、このマンションと敷地を全て依頼人が相続しようというので、弟さんは不満を感じてる」
「そう。それに、この賃貸マンション、築2年とまだ新しく、多摩地区の私鉄沿線だけど、ファミリー向けとしては手頃な賃料ということもあって人気のようだ。新築以来ほぼ満室が続いているらしい」
「そうだね。この沿線は近頃、人気が上がってるから」と、そこまで言って、私も気が付きました。
「さっきの6筆の土地、この人のお母さんが所有していた当時の価格を鑑定しろという土地は、マンションの建築資金にするために売ったんだね」
「ご名答」酒井くんは、少しおどけた調子で答えました。
「母親が所有してた6筆の土地を売却した資金と、君の依頼人がお金を出して、このマンションを建てた。それで、マンションは、母親と依頼人の共有となった。この6筆の土地は、ほとんど遊休地に近い状態だった。そんな土地を処分して、収益物件としてのマンションを建てたわけだ。相続税対策にもなるしな」
「それだけじゃない。このマンションが建っている敷地は、元々は2筆の土地で、少々歪んだ地型で、接道状況もあまり良くなかった。そこで、隣地所有者と交渉して、隣地の一部を買い取った上で、それらを含めて合筆して、マンション建設用地として整えた。その手続は、司法書士の私も手伝ったんだ。そして、そこにこのマンションを建てた」
「私も、似たような再開発を含めた相続税対策はやったことあるけど、君の依頼人は、元銀行員で不動産融資の業務をやっていたとはいえ、なかなかの手腕だね」
「依頼の意味が分かったようだね」
「ああ。その6筆の土地の売却代金が、マンションのお母さんの持分に代わり、さらにマンションが建つ土地の価値向上に使われたんだね。6筆の土地の売却当時の価格とマンションの土地建物の価格の差額は、依頼人の才覚によってもたらされた増額分ということになる。となれば、その分は民法上の寄与分にあたる。そうなれば、依頼人に帰属するということは、弟さんも納得するということだな」
「そういうこと。俺のお得意様でもあるんだ。よろしく頼む」酒井くんは頭を下げました。

(3)寄与分
 ここで、先ほど出てきた「寄与分」という言葉について説明しておきましょう。
これは、共同相続人の中に、被相続人(故人であり、相続財産の元の所有者)の財産の維持・増加に貢献・寄与した者がいた場合、その特別の寄与によって増加した額については、その寄与をした者が自己に与えられるべきことを主張できるのです。ですから、依頼人に土地売却やその収入によるマンション建築によって得られた土地やマンションの価格が、売却した土地や元の土地の価格より高額であれば、その差額が依頼人の寄与分となります。
ただ、ここでその寄与分の額を求めようとするのは、決して、裁判を提起して、そこでそれを主張しようとするためではありません。あくまでも、依頼人の貢献を解り易く示して、弟さんの納得を得るためです。

(4)解決
 そして、約1ヶ月後。鑑定書ができました。
 マンションの建築資金を調達するために売却した6筆の土地の、被相続人である依頼人の母親が所有していた当時における価格は、合計で6,700万円。マンションの敷地になった2筆の土地は、合計で3,500万円。これらの合計額は1億200万円です。つまり、依頼人が何もしなければ、これらの土地が相続財産だったということになるのです。
 一方、マンションの建物は、当初の査定によれば、相続財産となる2分の1の持分の価格で9000万円でしたから、1棟全体の価格は1億8,000万円でした。しかし、マンションの高稼働や沿線相場の上昇を考慮すると、鑑定評価額は2億円を下らないという評価になりました。マンションの敷地は、当初の査定と変わらず5,000万円。したがって、相続するマンションの持分と敷地の合計は1億5,000万円ということになりました。
 これは、依頼人の手腕によって、1億200万円の資産が1億5,000万円となったということだ。言い換えれば、母親の資産の増加に対する依頼人の寄与分は、その差額の4,800万円ということになる。
 マンション価格を2億円として計算しなおし、且つ、依頼人の寄与分4,800万円を差し引くと、依頼人兄弟のそれぞれの取り分は、次のようになる。

浩一 自宅 1,000万円
    マンションの土地建物 1億5,000万円
    母親の債務 -5,000万円
    寄与分 -4,800万円 合計6,200万円
洋二 アパート2件 合計5,500万円
光子 現金と遊休地、合計3,700万円

 すなわち、依頼人の相続分は6,200万円となって、弟・洋二氏の相続分との差額は700万円に過ぎなくなる。銀行を退職してまで母親の介護に尽くしたことを考慮すれば、弟の洋二氏も納得できる水準です。
結果、依頼人らの遺産分割協議は、母親の希望に沿った形で円満にまとまったといいます。
 依頼人も、嬉しそうにこう話してました。
「弟も、結局、母さんの介護は兄さんに任せっぱなしだったし、俺だったら、兄さんみたいに土地を売ってマンションを建てるなんて芸当はできないからな、と納得してくれました。でも、その代わりということで、弟が相続したアパートの管理をやってくれと言われてしまいましたよ。ちゃんと管理料はもらうからな、と言ったら、お安く頼みます、なんて言われましたよ」

 終

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