実例紹介・お客様の声
当社に寄せられた数多くのお客様の声の中からいくつか厳選して実例としてご紹介いたします。
Vol.11借地整理と相続対策 ダイジェスト版
1.少し複雑な事案
(1) 依頼人の自宅ビル
今回、私の不動産鑑定事務所に持ち込まれた事案は、少し複雑なものでした。
依頼人の方は、一色さんといいます。76才の女性で、商店街の通り沿いに700㎡の土地を所有されています。亡くなられたご主人から相続したものだそうです。この700㎡の土地というのは、隣接する4筆の土地の合計面積です。もっとも東にある250㎡の土地に依頼人の方が3階建てのビルをもち、1階と2階にはクリニックが入居し、3階が自宅でした。この土地を仮に100番地の1と呼びます。
(2) 閉店した洋菓子店
100番の1の西側にある120㎡ほどの100番地の2は、洋菓子店を営む方が借りていました。しかし、一緒に店を切り盛りしてきた奥さんを亡くし、店を続ける意欲を失って閉店してしまったそうです。そこで、息子夫婦と同居することになり、依頼人の方に借地権を買い取って欲しいと申し入れてきたというのです。この100番の2の借地人を、二階堂さんとします。
(3) 歯科医
その隣の100番の3の借地人は歯科医の三浦さんで、そこで歯科医を営んでいました。腕が良いと評判で、歯科医も繁盛していたようです。そこで、自宅兼診療所となっている建物の建替えを計画しました。建物の建替にあたり、その土地の底地(自ら所有する借地権の底地部分)を取得したいと考えたそうです。
ここまでであれば、依頼人の方も、100番の3の底地を売って現金が入るので、その資金で100番の2の借地権を買い取るということが可能だったのです。ところが、話はこれだけで終わりませんでした。
(4) 閉店した食堂
商店街沿いにある依頼人所有地の西端にあたる100番の4で食堂を営んでいた四谷さんも、借地権の買取り希望を申し出てきたというのです。
四谷さんは、100番の4で食堂を営んでいたのですが、体調を崩して食堂を閉め、引っ越すことになったというのです。
ちなみに、100番の2から100番の4の3筆の土地は、地型こそ多少歪んだ部分もありますが、いずれも概ね150㎡の土地でした。
2.依頼人の事情
依頼人は、借地人からさまざまな申出が一度になされて、どう対応したらよいか分からなくなり、永年付き合いのあった税理士さんに相談したそうです。高校で教師をやっている依頼人の息子さんから、銀行は融資ありき、不動産業者は取引ありきで話しを進めたがるので、税理士のようにもう少し中立的に相談に乗ってくれる不動産の専門家はいないのかと、税理士さんに訊ねられたというのです。そこで、税理士さんは、インターネットで不動産に関するコンサルタントもする不動産鑑定事務所として私の事務所を見つけ、依頼人親子と一緒に来所されたのです。
最初に相談されたのが税理士さんということもあって、相続税も念頭に置いた解決策を模索しているということでした。商店街に700㎡もの土地を所有していれば、下手をすれば相続税として、その半分くらいを物納しなければならなくなる可能性もあります。今回のように、借地の整理を行う際には、相続税を念頭においた解決を模索するというのは、たいへん賢明なことです。
さらに依頼人の方からは、亡くなったご主人が商店街の振興にたいへん心を砕いていたことを伺いました。できる限り、商店街の発展に繋がるような形で、借地の整理や、再開発を考えて欲しいということでした。私としても、依頼人の気持ちが分かると、非常なやり甲斐を感じるところです。喜んでこの依頼を承けることにしました。
3.解決策
(1) 等価交換
まず、100番の2の借地権を依頼人の方が買い取ります。そうすると、100番の2は、依頼人の方にとって借地権のない完全な所有地となります。
次がポイントです。100番の3の借地人である三浦さんは、医院の建て替えにあたり、借地ではなく自分の所有地としたいと考えていたのですが、まずは、西隣にある100番の4の借地権を、三浦さんが買い取ります。そうすると、100番の3と100番の4の両方の土地、合わせて約300㎡の土地の借地権を三浦さんが持つことになります。
この100番の3と100番の4は、借地権者が三浦さん、底地権者が依頼人となります。そして、この地域の借地権と底地の価格割合は、借地権6に対して底地権4です。そこで、100番の3と100番の4を合わせた300㎡の土地を、西側180㎡、東側120㎡の土地に分けます。西側の180㎡の土地を新100番の4、東側の120㎡の土地を新100番の3とします。
そして、新100番の4の依頼人が持つ底地権と、新100番の3に三浦さんが持つ借地権を交換するのです。借地権と底地の価格割合が6:4ですから、交換する底地権と借地権は等価です。これが、いわゆる「等価交換」と呼ばれる手法で、当事者は等価で交換するわけですから、測量や登記手続にかかる費用を除けば、土地の権利の変動にあたり対価を必要としないことになります。
(2) 借地整理後の権利関係
これで、依頼人の方としては100番の2の借地権買取りの費用が、三浦さんとしては100番の4の借地権を買い取る費用がかかるだけで、依頼人は借地権のない520㎡の土地の完全な所有権が、三浦さんは100番の4の借地権を買い取る費用のみで、180㎡という新たな診療所を建てるには必要十分な広さの土地の完全な所有権を取得できることになるわけです。
三浦さんが借地の底地を買い取りたいと考えたのは、そもそも新築する診療所の建築費用につき融資を受けるにあたって土地を担保にしたかったからです。結果として180㎡の土地の完全所有権を取得したので、三浦さんは銀行から十分な融資を受けることができるようになりました。
無論、二階堂さんも四谷さんも、借地権を売却したいという自分たちの希望が叶うわけです。
そして、依頼人の方は、520㎡という相応の広さの土地の完全所有権を取得できたことになりますので、比較的自由に再開発計画を立てることができることになりました。
(3)相続税対策
さて次は、依頼人の方の土地について再開発計画を立てる必要があります。私の方では2つのプランを作りました。
まず1つめは、現在建っている依頼人の方の自宅ビルはそのままにして、100番の2と新100番の3を合わせた約270㎡の土地にコンビニエンスストアを建てるというものです。このプランは、コンビニチェーン本社から2500万円程度の建設協力金の融資を受けることができます。コンビニの売上から、この建設協力金を返済していくというものです。商店街にはコンビニが進出していないので、十分な収益が上がると予想されます。依頼人としては、最も費用をかけずに行えるプランですが、相続税対策としての効果はあまり期待できません。
もう1つは、自宅ビルを取り壊して500㎡を超える土地に、それ相応の規模のしっかりとしたビルを建てるというものです。建築資金としては2億円を超えます。もっとも、それなりの広さの土地を担保とすることができますので、銀行が融資に応じる可能性は高いといえます。このプランは、依頼人としてはかなりの借金を背負うことになるわけですが、実は、それが節税に役立つわけです。すなわち、依頼人の方が亡くなった際に借金があれば、それだけ相続財産の総額、すなわち課税対象となる遺産額が少なくなるのです。相続税額は、相続する遺産額に一定の税率をかけて求められますので、遺産額が少なくなれば、それだけ相続税の額も少なくなるわけです。
依頼人の方は、息子さんと相談した上で、後者のプランを採用することになりました。銀行からも、総額2億2000万円を、返済期間35年、金利は10年固定の0.7%の好条件で融資を受けることができ、これは、依頼人側としてはほぼ希望どおりのものでした。そして、1階にはコンビニエンスストアとコーヒーショップを誘致し、2階にはクリニック、3階が自宅となる予定です。
4.結び
言うまでもないことですが、プランが出来たからといって全てが解決というわけではありません。むしろ、そこからがスタートです。皆が得になると信じてプランを考えたとしても、それを関係者に理解してもらい交渉をまとめ、プランを実行するのは、なかなか大変なことです。私は、地主さんから依頼を承け、依頼人の利益のために奔走しますが、他の借地人さんたちには地元の不動産業者さんが付いていたりします。それぞれの思惑が絡みつつも、交渉を重ねた結果、借地の整理に関する不動産取引をまとめ上げ、土地の分筆・併合登記をし、依頼人の方も、三浦さんも新たな建物の建設にとりかかりました。
新しい建物が完成し、依頼人の方の喜ぶ顔を見るのが楽しみです。