実例紹介・お客様の声
当社に寄せられた数多くのお客様の声の中からいくつか厳選して実例としてご紹介いたします。
Vol.8むちゃくちゃな兄嫁
私が社長をしているR商事株式会社は、父の代までは材木商としてそれなりに手広く事業を営んでいましたが、既に材木商は廃業し、今では所有地を賃貸したり所有地に建てたマンションからの収入を得ているのみの小さな同族会社という状況にあります。前社長は私の兄でした。兄の子は会社員でR商事を継がなかったため、自営業を営んでいた私がR商事を引き継ぎました。おそらく私の子も、この会社を継ぎはしないでしょう。いずれ会社の財産を整理して、私の代で会社は畳まなければならないと考えています。
そんなとき、前社長の奥さん、つまり兄嫁が、R商事とR商事が所有するマンションの住人を被告として、訴訟を提起してきたのです。マンションの住人には立ち退きを、R商事にはマンションを取り壊せと請求してきたのです。めちゃくちゃな話しです。
実はこのマンション、R商事と兄嫁との共有地と、兄嫁とその娘(つまりは私にとっては姪)の共有地という2筆の土地の上に建っていたのです。これらの土地はもともと兄の所有地で、兄の遺言によってこのような権利関係になっています。会社と残される妻のことを兄なりに考えた上のことだったとは思いますが、現実には、兄嫁との共有関係が会社を危機に陥れるきっかけになってしまったのです。
R商事はこれら2筆の土地の上に1棟のマンションを建設し、その賃料は兄嫁らと分けることになっていました。ただ、R商事と兄嫁らとの間に土地の賃貸借契約は締結されておらず、賃料は、賃料相当額を株主配当として兄嫁に支払っていました。あるときから、その額が少なすぎると、兄嫁は不満を言い出しました。誰かにそそのかされたのでしょうか。何故そのようなことを突然言い出したのか皆目見当が付きません。とにかく会社に対してもっと支払額を増やせと言うのです。しかし会社には増額に応じられるような経済的余裕はありませんでしたので断りました。
そうしたら、いきなり裁判所から前述の訴状が届いたのです。実はマンションが建つ土地について兄嫁と会社との間に賃貸借契約は取り交わしていませんでした。だから、R商事がマンションを建てて、この土地の全部を占有しているのは不法占拠だというのです。そのうえ、マンションの住民までを被告にして「マンションから出て行け」と訴えてきたのです。まったくむちゃくちゃです。
訴えられたマンションの住人は、面倒な訴訟に巻き込まれたくはありませんから、次々と退去していきました。空室が増えたからといって、こんな状況で新規募集ができるはずもありません。賃料収入は激減しました。
こうした裁判では、裁判所は和解を勧めてくるのが一般的です。ただ、会社にとって不利だったのは、兄嫁と会社との共有地は公道に接していなかったことです。公道に面しているのは、兄嫁と姪の共有地の方だったのです。これが逆だったら、兄嫁もここまで強気にはなれなかったと思います。裁判所から和解案を求められましたが、良い考えが浮かびませんでした。弁護士と話し合って、何かよい案はないかと不動産鑑定士に相談することにしました。
不動産鑑定士事務所を訪れ、事情を説明しました。不動産鑑定士の方はマンションの隣の土地に目を付けました。実は、その土地はR商事の賃借地なのです。兄が社長の時、事業を手伝ってもらおうと叔父を呼び寄せ、自宅の隣の土地を借りて叔父の自宅を建てたのです。叔父は、既に会社の経営からは引退していましたが、そこを終の住処と定め今でも住んでいます。賃貸人は地元の有限会社T商店です。この叔父の自宅が建つ賃借地とマンションが建っている2筆の土地を合わせれば1,000㎡を越え、それなりの規模のマンションを建てることができます。鑑定士の方はそこに目を付けたのです。「マンションデベロッパー(マンション開発業者)に心当たりがありますので、あたってみます」と言うのです。
土地は数筆をまとめることができれば、そこに収益性の高い大規模なマンションや商業施設を建設することができます。そうした「再開発」を前提にした土地の売買価格は、これがない場合の数倍に跳ね上がります。できあがったマンションや商業施設の中に、提供した土地の価格に応じて地主が区分所有権や持分を取得するという「等価交換」という手法もあります。いずれにしろ、再開発により、個々の土地の価値・価格が大幅に向上します。土地の有効活用というものです。こうした全ての当事者が利益を手にできる前向きな和解案であれば、裁判所も兄嫁も納得してくれるに違いありません。早速、具体案の策定をお願いしました。
心当たりのデベロッパー(開発業者)N不動産は、高級マンションを展開しており、私たちの土地の周辺にも2棟ほどマンションを建てています。周辺地域は、十数年前に美術館ができたのをきっかけに若者向けの垢抜けた店が増え、住宅地としての人気が上昇してきました。N不動産は、3筆の土地を一緒に取得できるのであれば、話しに乗ると言ってきました。マンション用地を探していたN不動産としては、3筆の土地の錯綜する権利関係を整理してくれるなら、渡りに船というところなのかもしれません。問題は、兄嫁の説得と、隣地の底地権者であるT商店と叔父を説得することでした。
隣地の底地権者であるT商店は二つ返事で話しに乗りましたが、意外に難航したのは叔父の説得でした。叔父は、兄に呼び寄せられ、終の住処として越してきたのです。それなのに立ち退かなければならないのというのは、たしかに辛いところです。なんとか近隣に叔父の転居先を探し出し、納得してもらいました。ここまでくると次は和解案です。
3筆の土地をまとめて約8億円で売却することを前提に、兄嫁には2億円を支払うという案を提示しました。兄嫁は、突然の再開発計画をよく理解できず、理解できないものはとりあえず拒否するという感情からか、最初は難色を示しました。しかし、幸いなことに兄嫁側の弁護士は不動産方面にはたいへん詳しい高名な先生で、「よくこれだけの計画をまとめましたね」と、この再開発計画を認めてくれました。この先生が兄嫁を説得してくれたお陰もあり、兄嫁の態度も軟化してきました。相手方の弁護士すら認めてくれた和解案です。裁判所も納得してくれました。
こうして和解も成立し、3筆の土地はN不動産に譲渡され、売却代金は、兄嫁、姪、R商事、T商店、叔父で分配し、叔父もほど近い場所に転居していきました。兄嫁のむちゃくちゃな訴訟から八方手詰まりの感がありましたが、不動産鑑定士さんに相談してからは風向きが変わり、いろいろとすったもんだもありましたが、なんとかこうした形で関係者全員が利益を得る、いわばWiNWiNの形で解決することができました。もちろん弁護士の先生にもたいへんお世話になりましたが、やはり餅は餅屋とでも言うのでしょうか、今回は不動産鑑定士さんでしたが、不動産のことは不動産の専門家に相談するのが最も良いということを痛感しました。
むちゃくちゃな兄嫁の訴えから、災いを転じて福となすといったところでしょうか、R商事も結果として3億円超の現金を手にすることができ、関係者には大変感謝しています。今ではむちゃくちゃな兄嫁に感謝してもよいような気すらしています。