実例紹介・お客様の声
当社に寄せられた数多くのお客様の声の中からいくつか厳選して実例としてご紹介いたします。
Vol.74兄弟の共有地
三本矢で有名な戦国大名の毛利家ではありませんが、母の実家は兄弟仲良くが家訓だったそうです。母は、兄が1人、妹が2人の4人兄弟です。正確には兄妹ですが。実際、私の母の兄弟は仲が良く、私が子供の頃は、夏休みや正月休みなどにはよく母の実家に遊びに行き、従兄弟達と楽しく遊んだ思い出があります。さすがに私も40代の半ばともなると従兄弟との交流はほとんどありません。しかし、母は今でも叔母さんと連れだって観劇に出かけたりしています。
そういった家風のせいでしょうか、母は兄弟3人と4ヶ所の土地を共有しています。2ヶ所は駐車場で、他の2ヶ所は借地で、それぞれの地代は兄弟で仲良く分け合っています。しかし、そんな母も70才に手が届こうかという歳になり、叔父は既に70才を超えています。もし、4人で共有の土地を相続した場合を考えると、母や伯母達のように従兄弟とうまくやっていけるか不安になります。従兄弟達と特段に仲が悪いわけではありませんが、もはや疎遠ですし、共有の人数が増えれば、それだけ意見がまとまりにくくなるのが道理です。できれば、母や叔母さん達が元気なうちに、土地の共有関係を解消したいと考えたとしても理解していただけると思います。
共有している4ヶ所の土地は首都圏に点在しています。4人兄弟なのだから4ヶ所の土地をそれぞれ1ヶ所ずつ単独所有にすればよいようにも思えますが、それぞれ評価額が違うでしょうから、そう単純にはいきません。4ヶ所の土地をそれぞれA地、B地、C地、そしてD地とします。A地は都内にあり、約120坪の駐車場で、幹線道路沿いということもあって、もっとも評価額は高いと思われます。B地はS県内で、最寄り駅は東京駅から1時間弱、広さはA地と同じく約100坪、住宅街にある駐車場です。C地とD地もS県内にあり、C地が70坪、D地が80坪で、いずれも賃貸していますので、評価額はA地やB地と比べればさほどのことはないでしょう。私としては、A地かB地を母の単独所有として、そこにアパートを建てたいと考えています。そして、母は他の土地の共有から抜けます。そうすれば、私は両親の老後の心配をする必要がありませんし、後々、複雑な共有関係に悩まされる心配がなくなります。しかし、そのためには、今、頭を使わなくてはなりません。
母の共有持分と叔父さん叔母さんの共有持分を交換して、A地かB地を母の単独所有にするとしても、それぞれの土地の評価額が異なりますから、母が受け取る3人の持分と、母が3人に渡す土地の持分の価額が全く同じというわけにはいきません。おそらく母から幾ばくかの交換差金を支払わなければならないと予想されます。というわけで、何はともあれ、それぞれの土地の評価額を確認しなければなりません。私は、ネットで調べて、ある不動産鑑定士事務所に依頼しました。
鑑定評価額は、私の見立てどおりA地が最も高く1億8,000万円、さらにB地が1億円、C地が2,400万円、そしてD地が3,600万円でした。評価額が分かれば、いろいろと考えることができます。4人兄弟で均等に共有していますので、各人の持分の評価額は、A地が4,500万円、B地2,500万円、C地600万円、D地が900万円となります。
仮にA地を母が単独所有するとなると、3人からそれぞれ4,500万円ずつ、合計1億3,500万円分の持分を受け取ることになります。それに対して、母から3人に渡す持分の合計は、2,500万円+600万円+900万円ですから、合計で4,000万円分となります。これでは母から叔父さん達に支払う交換差金は、1億3,500万円と4,000万円の差額である9,500万円となり、持分の交換に必要な経費も母が持つとして、ざっと1億円近い現金が必要となってしまいます。はっきり言って、これを負担するというのは無理な相談です。
となると、B地を母の単独所有にすることになります。B地ですと、母は3人から合計7,500万円分の共有持分を受け取ることになり、母から3人に渡す持分の合計は、4,500万円+600万円+900万円で合計6,000万円分となります。その差額は1,500万円ですので、必要経費を入れても、母が負担することが可能な金額となります。母から叔父さん叔母さん3人に500万円ずつ払い、B地は母の単独所有、A地・C地・D地は、母が共有関係から抜けて、叔父さん叔母さん3人の共有になるわけです。B地であれば、住宅地にありますから、アパートを建てて、それなりの家賃収入を得ることができるでしょう。両親の老後の生活資金としては充分です。また、叔父さんや叔母さんにとっても、最も価値のあるA地について持分が増えるのですから、決して悪い話しではないはずです。鑑定士とも相談した結果、これが最も現実的な案だということになりました。
さて、方向性は決まりましたが、最後に難関が待っています。叔父さんの説得です。前々から、私がこうした考えを持っていることを、それとなく叔父さん叔母さんに伝えていました。叔母さん2人はあまり関心がなさそうで、不公平のないようにするのなら別に構わないとのことでした。でも、叔父さんには「何か小狡いことを考えているんじゃなかろうな」という顔をされてしまいました。別に叔父さんに嫌われているつもりもありませんし、私が叔父さんを嫌っているということもないのですが、子供の頃から、厳しい叔父さんで、いつも叱られていたためか、この歳になってもちょっと苦手な叔父さんなのです。そこで、最も評価額が高いA地が3人の共有になるということは決して悪い話しではないこと等をしっかりと説明して、叔父さんを説得しなければなりません。このちょっと苦手な叔父さんの説得のためには、不動産鑑定士の方にしっかりとした資料を作成してもらい、叔父さんへの説得に同席してもらいました。
B地にアパートを建てて、母の老後の生活資金を確保すること、A地は、幹線道路沿いで最寄り駅からも歩いて5分という好立地のため、今後東京オリンピックに向けて資産価値の向上が望めること、C地やD地についても4人の共有から3人の共有になるため、地代収入が増え、将来的には借地関係を整理すれば有効活用も期待できることなど、不動産鑑定士の方から説明してもらいました。叔父さんは興味深そうに話しを聞いていました。聞き終わった叔父さんは、私の方を向いて「お前も、母親のことや、将来のことをちゃんと考えられるようになったんだな」と言い、ニヤッと笑いました。未だに子供扱いですが、褒められて悪い気はしません。いつも叱られてばかりいた叔父さんでしたが、有名私立中学に合格したことを報告したときには「よくやった」と頭をぐりぐりとなでられたものです。そんな思い出が頭をよぎりました。
叔父さんに了解をもらったので、さっそく登記や交換差金の支払いに向けた作業にかかりました。さすがに4筆の土地の4人の共有持分の交換ですので、書類の山と格闘する日が続きました。不動産鑑定士の方には、税務関係の調整について相談にのってもらったり、登記のために司法書士を紹介してもらうなど、最後までお世話になりました。でも、最もありがたかったのは、叔父さんの説得でした。