実例紹介・お客様の声

当社に寄せられた数多くのお客様の声の中からいくつか厳選して実例としてご紹介いたします。

Vol.6地上げ

土地は、細切れの状態よりもまとまっている方が大規模な建築物が建てられるようになって、面積あたりの利用価値が高くなるため、買い集めるとその価格は上がります。こうした目的で土地を買い集めることを、俗に「地上げ」と呼びます。1980年代後半から90年代初頭にかけてのバブル経済期には「地上げ」が横行しました。札束で頬を叩くように大金を積んで買い取るだけでなく、金で動かないとみるや暴力的な手段で地主や借地権者に立ち退きを迫る事例もありました。地主が営んでいる店にトラックが突っ込むなどという事例もあったようです。私はそんな時代を経験しているため、不動産には、どこかヤクザやら暴力団などのイメージが付きまとっていました。それから30年近く経ち、私も親から幾つかの土地を相続しましたが、「地上げ」には必ずしも良いイメージを持っていませんでした。

ある日、私の家に「S市M町の40坪の土地の所有者の方ですか・・・」と、見知らぬ人が訪ねてきました。不動産業者かと思ったものの、私の知る不動産業者にありがちな押し出しの強さが全く感じられない落ち着いた話し方で、理知的な雰囲気すら漂わせていました。差し出された名刺には「不動産鑑定士」とあり、「なるほど」と納得しました。

M町の40坪の土地というのは、私の所有地ですが、親の代から借地になっています。月1万円、年間で12万円の地代で、そのほとんどが固都税となって消える、所有者にとってほとんど無価値とすら言って良い土地です。接道義務を満たさない土地のため売却のしようもなく持て余していました。

来訪者の用件は、要するにこの土地を「地上げ」したいというのです。隣地を売却するにあたり、私の土地ともう1つの土地を一緒にすれば、マンション用地としてかなり高く売れるというのです。降って湧いたようなおいしい話しなのですが、なんとなく買い叩かれるのではないかとの不安があったのも確かです。毎年12万円入るだけの土地になってしまっていますが、そのことを知って足下を見ているとしたら面白くありません。

それに、借地人もいます。場合によっては借地人の方が地主よりも儲かるような話しだと、さらに面白くありません。この借地人は変わり者で、何かの宗教に入れ込んでいて、お経か何かの声がうるさいとか、伸ばし放題の庭木の枝が邪魔だと近所から苦情が来ます。借地人に苦情を言っても聞き流されるものですから、ついには地主の私の方へ苦情がくる始末です。

私はこういったことを正直に話しました。がめつい地主と思われるのを覚悟の上です。この土地を所有していて余り良い事がなかった手前、なんとなく美味い話には裏があるような気がして乗り気になれなかったのです。私の話を聞いた後、不動産鑑定士は「買い取り価格については検討させていただきます」と言い残して帰って行きました。話しを聞くだけ聞いて大人しく帰ってしまったので、少し拍子抜けした気分でした。

借地権付きの土地の値段がどんなものなのか、私も気になったので、知り合いの不動産業者に尋ねてみるなどして調べてみました。借地権付きの土地の買い取り価格のうち、概ね借地権者が7割、底地権者(つまり地主)が3割だとのことです。「なんだよ、結局、借地権者の方が儲かるのか」とガッカリです。M町の土地は言われるがままに売った方が得なのは分かっています。でも、どうしても釈然としないものが残り、積極的になれませんでした。

2週間ほどして、先日の不動産鑑定士が再び訪ねてきました。「借地権者の方ともお話しし、このような形で売買代金を分配するということでいかがでしょう」と、具体的な金額を示してきました。

聞くところによると、借地人は1年ほど前に高齢者施設に入ってしまったため、借地上の居宅は空き家になっているとのこと。地代は銀行振込みで支払われていたので、私はそれを知りませんでした。そこで彼らは借地人の妹を探し出して、借地権の買い取り交渉をしたようです。地上げも案外地道な作業をやるものだと感心してしまいました。

示された条件は、借地権者と底地権者の取分割合が「5:5」でした。「7:3」と思っていたところ、驚きました。借地権者の方では、既に住んでいないこともあって、借地権を処分したいという気持ちがことのほか強かったので、次のような事情を考慮したそうです。

つまり、私の土地は接道義務を満たしていませんが、公道に接していないわけではありません。公道に接していても、接する部分が狭いために接道義務を果たしていないのです。そして、この僅かながらでも公道に接している部分の土地は私の所有地ではありますが、賃借地には含まれておらず、借地人の使用を事実上許諾していただけだったのです。実を言うと、そのこと自体、私も忘れていました。賃借地のみの評価としては、どうしても「7:3」からせいぜい「6:4」程度のものだったそうですが、この接道している細長い土地は、公道に接しているという意味で相応の価値を有するものとして評価し、こちらは賃借地に含まれていませんでしたので、売却した時の私の取り分は100%ということになり、その結果、賃借地と接道部分を合わせた土地の取分の割合は「5:5」と評価できるというのです。実に理路整然とした説明でした。私の気持ちも汲んでくれています。

こうして、私の土地は地上げされ、私は約2,000万円を手にすることができました。抱いていたイメージとは随分異なる「地上げ」でした。大金をちらつかせるようなこともなく、無論恫喝なんか全く無く、淡々と周辺事情と土地の評価を説明しただけでした。年間12万円しか入らない土地でしたが、最後にはそれなりの利益をもたらしてくれました。こういう「地上げ」は悪くないと思いました。親から相続した土地が他にもあるので、この不動産鑑定士に相談してみようかと、もらった名刺を眺めています。

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