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遺産分割|思い出の樹2

相続した土地をめぐる姉弟の対立を描く物語を連載します。
不動産をめぐる相続のよくあるトラブルの一例として、参考になれば幸いです。
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母の死

2ヶ月前、直紀の母・知加子が亡くなった。享年70 才。

 

知加子は若い頃から身体が弱かったという。深刻なものではないようだったが、先天性の心疾患を抱えていた。そんな母の身体のことを父・直孝から聞かされたのは、直紀が就職した後のことであった。

 

7年前、父・直孝は癌で、母をおいて逝ってしまった。体調を崩し入院した後、1 ヶ月ほどで亡くなった。急死といってもよかった。母は気丈に振る舞っていたが、その寂しさは筆舌に尽くしがたいものであったろう。そんな母の寂しさを少しでも紛らわそうと、直紀は、父の死後は頻繁に実家に行くようにしていた。

 

しかし、その母も一昨年に体調を崩し、1年ほど寝たり起きたりの日々を自宅でおくるようになり昨年入院、2ヶ月前に息を引き取った。

 

姉・早紀

 

母は、画家である姉・早紀と同居していた。同居といっても約450 平米の土地に2 軒の家があり、母はその母屋に、早紀は別棟で暮らしていた。

 

早紀は、美大を卒業後、高校の美術講師に就職したが、作品の制作を続け、30 代の半ば頃から連続して展覧会で入選したのをきっかけに教師を辞め、画家として一本立ちして、今では別棟を自宅兼アトリエとして使っている。テレビからも取材を受けることもあるなど、なかなかの売れっ子だった。

 

早紀の住むその別棟は、もともと早紀の夫が、義父、つまり早紀の父・直孝から土地を借り、自分の資金で夫婦の新居として建てたものだ。しかし、2 人は父が亡くなる前年に離婚してしまった。家の所有権は、離婚時の財産分与として姉が譲り受け、早紀の夫が出て行った。

 

端からみるかぎり、特に仲が悪いようには見えなかったが、夫の転勤話がきっかけとなって2 人は別れたようだ。もっとも、2 人の間に特に大きな感情的な諍いはなかったと聴いている。ある日、突然「離婚することにしました」と早紀から告げられ、家族は驚いたものだ。2 人の間に子供が1人いて、親権は姉が持つことになったが、今では子供は分かれた夫と暮らしていた。だが、その子は、両親が離婚した後も、頻繁に早紀のもとに訪れていた。

 

無論、直紀は、早紀に離婚した訳を訊ねたことがあったが、姉は何も語らなかったため、それ以上追及することはなかった。父も母も同じだったという。直紀としては、夫は、画家として成功を収めつつある姉のために、制作に専念するための環境を与えようと家を出たのかもしれないのではないかと、思ったりもしている。